【第1回】物流センター自動化のロードマップ
【執筆】菊田一郎 エルテックラボ 代表/物流ジャーナリスト
アフターコロナは超人手不足
アフターコロナ社会がいよいよ始動し、産業経済に活気が戻ってきました。壊滅的な打撃を受け青息吐息だった外食や観光などの業界も、インバウンド需要の復活で盛り上がりを見せています。ところが、です。「人手が集まらないので、半分しか稼働できない……」といった悲鳴があちこちで上がっています。なぜなのでしょう?やはり、生産年齢人口の減少がこの3年間でさらに進んだことが最大の原因でしょうか。日本の生産年齢人口は、2022年1月1日時点で7496万2731人、前年比で60万3821人が減少しています(図表1)。
毎年約60万人の人口減が3年間続き、コロナ前に比べて約180万人も減ってしまった!大変なことなのに、コロナ下での需要減退そのものと、不稼働部門からの労働力移動もあって見えないでいたのが、顕在化。まっ暗闇のコロナトンネルを抜けたと思ったら、私たちは「超人手不足社会」に突っ込んでいた、というわけです。
こうなると、労働力の売り手市場化がどんどん進みます。就職戦線だけでなく、中途採用・非正規雇用でも労働者は労働条件を吟味して、余裕で選別できるようになる。個人生活(QOL)重視/人権尊重当然、などのメンタル/社会規範変化もこの流れに掉さしていて、低賃金で労働環境の良くない仕事はますます選ばれなくなります。
問題は、これが外食、観光業界だけの事情ではないこと。「物流2024年問題」で叫ばれるトラックドライバー不足だけでなく、工場・倉庫ほかの「構内物流」現場もまったく同じです。キツくキタナく給与の安い(3KY)物流現場にも働き手は集まり、定着してくれるのか?……はっきり言って、厳しいんじゃないでしょうか。
省力化・自動化がマストの時代へ
そんなわけで倉庫や物流センターをもつ企業にとって2023年度は、より少ない人員で現場を回せる、「構内物流作業の省力化・自動化」が中心テーマの1つになるはずです(世界的には自動化・ロボット化の浸透で何百万人もの労働者が失業する!と騒がれていますが、我が国はその心配が少ない、まれな国だったりします)。となれば、「物流現場の自動化」を、少々体系立てて考える必要があると筆者は思います。いきなり「ウチの倉庫を全自動化するぞ!」といってもムリな話。まず自分の立ち位置を確認し、階段の先まで見通せたら、ターゲットを定めて前進への計画を立てる、というステップが必要でしょう。そこで今回は筆者なりに、「物流センター自動化のステップ/レベル1~レベル5」を仮提案してみます。煩雑になるので拠点間・企業間の情報連携・通信技術(ICT)や、環境対応レベル等の条件は捨象して、現場の設備機器=ハード視点に集中してイメージを描きます。
レベル1/紙ベースのアナログ現場
- ハード設備としては、パレットやケースを保管するラック(棚)と、フォークリフト、パレットトラック、手押し台車ほかの産業車両、単純コンベヤなどベーシックな設備のみ。本コラム読者の現場に、これらもないわけはない(もしなければ「レベル0」)と思うので、ここからスタート。
- ソフト(ICT)系では電話、ファックス、基本ソフトをインストールしたパソコンとプリンタ程度。
⇒ 現場運用は、指示書やリストなどほぼ紙ベースのアナログ作業。「貨物を入れた場所を記憶したベテラン作業者なしでは、回らない」昭和のままの物流現場。
レベル2/WMS・バーコード管理を導入
- WMS(倉庫管理システム)とハンディターミナル/バーコードリーダを導入。入出荷・入出庫、在庫管理など基本作業指示と管理はシステム化、貨物とロケーションをバーコードで管理。
- 荷役系にリフタ関係、搬送系に駆動コンベヤなど、省力化に一歩前進。
⇒ 21年のLOGISTICS TODAYの調査によると、国内物流関連企業の66.8%が「全てまたは一部の事業所でWMSを活用中」とのことなので、少なくとも国内の半数くらいの現場が「レベル2」以上の段階にありそうです。
レベル3/マテハン機器、ロボットの部分導入
- 立体自動倉庫、自動仕分けコンベヤ、デジタルピッキングステム(DPS)、デジタルアソートシステム(DAS)、パレタイザ、自動包装機・梱包機など従来型のマテハン設備を部分的に導入し、自動化に前進(ハンドリング自動化の範囲はパレット、ケース単位まで)。
- またはAGV(無人搬送車)やAMR(無軌道自律走行ロボット)を部分的に導入している。
⇒ 近年は高価な固定マテハン設備でなく、フレキシブルなAMRや簡易AGVから部分自動化を始める例も増加。購入でなくRaaS(Robot as a Service)によりイニシャルコストなしでの利用も可能になってきました。
レベル4/マテハン、ロボット設備を本格導入
- 上記システムを複数、または大規模に導入し、各工程を相互連携。ロボット自動倉庫や連動するAGVによるGTP (Goods To Person、人が歩かない定点ピッキング)運用などで、自動化レベルを大きく向上。
- バーコードに加えRFIDなどIoT技術の活用ケースもあり。
- パレット、ケースに加えピース単位のピッキング、梱包作業も部分自動化。
⇒ これにもピンからキリまでレベルの違いはありますが、従来技術で最高度の自動化を進めた国内の模範事例としては、PALTAC、アスクル、トラスコ中山、BEAMSの物流センター等が挙げられます。
レベル5/(ほぼ)全自動化物流センター
- 以上に加えて人手作業が残りがちなトラックからの積み下ろし、設備工程間搬送、箱からオリコンへの荷姿変換など、パレット、ケース、ピース単位の搬送・ハンドリングも全面自動化。
- シミュレーションによる最適化計画だけでなく、現在の設備稼働状況をリアルタイムに把握し、監視と即時コントロールを可能にするデジタルツインを導入。非常時に責任者へアラームを発し要員が対応するほかは、全自動で稼働。
⇒ まだ現実には登場していませんが、技術進化で理論的には可能な射程に入ってきました。究極の姿としてイメージしておくのもよいと思います。(なお中国・JD.comの上海物流センターで2018年2月、「全工程が自動化された世界初の完全自動倉庫が完成した」と発表されていますが、公開情報ではトラックとの積み下ろし作業や小物ピースピッキングの自動化状況が確認できず、本稿の定義に該当しない可能性もあるので保留しておきます。)
……いかがでしょうか。倉庫・物流センターの自動化レベル分けはおおよそ、こんな風に描けるのではと思います。現実には各層の設備機器は厳密に区分されるわけでなく、混在、または一部がアンバランスに進んでいたり遅れたりもするでしょう。
でも大雑把に「ウチのセンターは今、レベル2だけど、3年内にはレベル3にしよう」「人員を2割減らさないと回せなくなるから、レベル4を目指そう」といった議論の参考にはなるはず。
当コラム「物流センター自動化のステップ編」では続いて、今回解説なしに書き出した各自動化機器の特徴や技術動向を追ったあと、それらを思い通りに使いこなすために必要なソフトウェア、実行管理システムまで、5回にわたり「物流自動化」を深掘りしていきたいと思います。
(つづく)
筆者プロフィール
菊田 一郎(きくた・いちろう)
エルテックラボ 代表/物流ジャーナリスト
1982年名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年間勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体役員等を兼務歴任。この間、国内・欧米・アジアの物流現場・企業取材を約1,000件実施、講演・寄稿など外部発信も多数。 2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化/DX、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスし、著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より23年6月まで㈱日本海事新聞社顧問、20年後期より流通経済大学非常勤講師、21年1月よりハコベル㈱顧問。 著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)、「物流センターシステム事例集1~7」(流通研究社、単著)など。
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WES(倉庫実行システム)とは?
物流倉庫業務における基幹システムで、原料や在庫といった物の管理を行うWMS(倉庫管理システム)と、倉庫内の設備のリアルタイム制御を行うWCS(倉庫制御システム)の間で、「物流現場の制御・管理に特化」したシステムのこと。 従来WMSが行っていた現場の制御と管理をWESに分離することで、WMSの役割がシンプルになり、自動化設備の導入や作業手順の変更等、業務の変化にスピーディーに対応することが可能となります。